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2012/01/03

1965 Gibson SG Standard But '64 Spec. - Part 3

 お約束のザ・インサイドSGネタです。 

Typically An Early Type SG's "Tight-Cut" Cavity
 Control Cavity

 これもまた、やはり'64 Spec.のタイトなカットのキャビティーです。

 前のPartでも解説しましたが、Switchcraft製のSwitchとJackが使用されています。
 Switchは、先端の絶縁樹脂Tip部が白色と黒色の物があるようですが、これは乳白色タイプです。

 Potは、刻印されているSource Codeから、CTS社製とわかります。

 Pot Source Code: 137650

 また、このSource Codeから、Pot及び本体が65年製であることもわかるのですが、このPot場合、何故か、週にあたるDigitが一桁欠け落ちていて、そこが謎でした。調べてみると、他にもまったく同じCodeのPotがあることが確認できました。つまり、このPotの場合、本来、もう一桁ある筈のDigitが欠けているのは、刻印時のミステイクで、どうやら、1965年の一番最初に製造されたロットのPotのようです。このことからも、このSGが1965年度の最初期に製造された個体であろうことがわかります。

 ちなみに、このCTS社製Potのシャフトはブラス製なのですが、1950年代当時、Gibsonが純正併用していたCentralab社製のPotには一部、アルミ・シャフトの物があります。初期のオリジナルLes Paulには、このアルミ・シャフトのCentralab社製Potが使用された個体があり、一説では、Potはアルミ・シャフトのものが音が良いと言われています。私的には、比較経験がありませんので、これについての確信は得ていません。

 Close-Up撮影してみました。
All Original Parts - CTS Pots(Source Code: 137650), Switchcraft Switch & Jack, Ceramic Type 0.022μF 50v Capacitors

 ギタ・バカ諸氏、生唾もんの、無改造「ハンダ・ヴァージン」であることがおわかりいただけましょうか。Oldギター・ヲタクが、この画像を一見すれば、Pickupを含めた一連の全ての電装系パーツが、手つかずのオリジナルのまま無交換で維持されていることが一目瞭然です。

 Gibsonのキャビティー内典型の「コ」の字形状Pot間GND.ワイヤリング。絶縁皮膜は黄色いEmpire-Tubeで、これも、この時期のGibsonの典型的配線材アイテムです。
 この時期のSGはBridge Saddleがナイロンの為、Vibrolaに接着させて落とされる裸の単線のGND.ワイヤーが、Pickupのシールドに結わえ付けられてハンダ付けされています。
 リアPickupのシールド・ワイヤーはカットせずに、余らせてありますね。

 Capacitorは、セラミック・タイプで、これはSGモデル初期から採用されたタイプです。恐らくは、SGの場合、ボディの厚みが薄く、その上、キャビティ・スペースがタイトな設計である為に採用されたもので、音質的な傾向を考えて、の結果ではなく、サイズ的にコンパクトであるが故の選択ではなかったろうかと考察します。
 値は0.022μF 耐圧50v。

 実測値:
 Front@0.01820μF
 Rear@0.01815μF

 誤差はそこそこありますが、これは経年変化を鑑みれば、まだ優秀な部類と思われます。
 セラミック・タイプのCapacitorは、トーン・キャラクター的には高音域寄りである、と一般的に言われますので、その音質的傾向はSGモデルのサウンド・キャラクターに大きな影響を及ぼしていると思います。

 そして、ここからが今回のキモなのですが、"Gibson 50's Wiring"なのです。
 これはなにかと言いますと、これこそがOld Gibsonギター・サウンドのシークレット部分なのですよ。

 では、リアPickupのVolume Potで説明します(上の画像中、4つある内の左下のPotです)。
  • このPotの三つある端子の内の①端子(画像の当該Potでの一番上の端子)は、ケースにハンダ付けされ、ショートされてGND.に落ちています。
  • ②端子(中央:Wiper)は、Volume PotのOutputで、SwitchとTone Potとにコモン接続されています。
  • ③端子(下:Input)には、PickupのHotが接続されています。
この接続関係を、現代の一般的なギターのそれと見比べてみればわかるのですが、普通のギターでなされている一般的な配線方法(これを "Modern Wiring"と呼びます)では、③端子にTone Potへの配線が接続されているのです。つまり、PickupのHotとCapacitorが常時コモン接続となっています。
 ところが、このSGの配線では、PickupのHotは一旦Volume PotのInputに単独接続され、Capacitorは、Volume PotのOutputに接続されているのです。ちなみに、Old Les Paulもまったく同じワイヤリングです。

 さて、このワイヤリングによる違いが、実際にサウンドにどう表れるのか? この関連性の差異を、電子工作が苦手なギタリスト向けに文学的比喩で表現しますと、
  • Capacitorをウィスキーの樽とします。
  • Pickupからの信号(出力)をミネラル・ウォーターとします。
  • Volume Potを、ミネラル・ウォーターを計量するメジャー・カップとします。
  • ワイヤリングの違いは、即ち、バーテンダーの違い。
  • ギター操作をするプレイヤーは、当然ながら、水割りを注文して飲むお客役ですね。
  1. "Gibson 50's Wiring" バーテンダーは、ミネラル・ウォーターの分量に合わせて、もし、その量が少なければ、少ない分だけ、ウィスキーの分量もミネラル・ウォーターの分量に合わせてメジャー・カップで計量調整した後、ミックスした水割りをつくってお客に出します。つまり、[ミネラル・ウォーター:ウィスキー]の混合比率は、総量の多い/少ないに関わらず、 常にほぼ一定です。ですので、お客は、出来上がりの総量の多い/少ないに関わらず、ほぼ濃さの変わらない(味の変わらない)ウィスキーの水割りが飲めます。
  2. 一方、"Modern Wiring"バーテンダーは、例えミネラル・ウォーターの分量が極端に少なくとも、メジャー・カップは一切使用せずに、比率などお構いなしで、いつでも同じ最大分量のウィスキーを樽から出して混ぜ合わせるのです。つまり、お客が水割りの総量を少なく注文した場合、極端に味の濃い水割りを飲まされることになります。
  3. ただし、ミネラル・ウォーターの量が最大値(Volume絶対値: 10)のときは、何れのバーテンダーが出す水割りも、その濃さ(味)は同じです。
つまり、これが何を示すのかと言いますと、 Volumeをフルから絞り込んだ状態のときのCapacitorのサウンドへの影響の割合です。

 Tone Controlを絞った(効かせた)とき、その音がCapacitorの影響で高音域がカットされ、音質が籠ることは、ギタリストなら承知のことですが、 実は、例え、Tone: 10のとき(便宜上、Capacitorへの信号が遮断されているとされるとき)でも、回路の接続上、実際にはCapacitorの影響は若干あるのです。なので、Volumeを絞ったときのサウンドへの影響に、このワイヤリング次第で僅かながら差が出るわけです。
 要するに、"Gibson 50's Wiring"は、Volume操作時におけるサウンドの高音域の減退傾向を少しでも食い止めんが為の工夫なのです。
 Gibsonでは、だいたい60年代後期までは、このワイヤリングで製造していたと思われます。が、その伝統はいつしか済し崩しになってしまったようで、現行品では、一般的な"Modern Wiring"で配線されているようです。残念ですよね。

 このサウンドの違いを確かめるのは簡単です。
 Volume Potの端子上で、PickupのHotとコモン接続されているTone Potへのワイヤリング(或いは、Capacitorのリード)を外し、もう一方のVolume Potの端子にハンダし直せばよろしいです。あともう一つの端子はGND.(アース)になっていますから、間違えようがないと思います。

 音量レベルはペダル類で調節し、「いつでも常時ギター本体のVolumeはフル10でしか使わない」というギター・プレイヤーは結構います。それは、何故かと言うと、ギターのVolume Controlを絞ったときに、高音が失われた「美味しくない/使えない」サウンドになってしまうことを、彼らは経験的によく知っていて、それを嫌っているからです。
 この"Gibson 50's Wiring"は、正にそのようなプレイヤーにこそ推奨されるものです。一転、VolumeもToneも、ガンガン使うプレイヤーに変身してしまうかも知れません。(笑)

 このワイヤリング方法の違いについて、理解されていない無知なプロのリペア・マンは、残念ながら日本には多いです。また、或いは、「何れの配線方法でも結果は同じで、まったく音に変わりはない」と主張されるプロの方も居られます。なので、Oldギターを修理に出して、手元に返ってきたら、"Modern Wiring"にされて戻ってきた……なーんてことは結構多いのですよ。友人所有の1969 Gibson SGは、過去にPickupを換装されていたのですが、どうやらその際にバッチリ"Modern Wiring"に「改悪」されておりました。彼のご依頼どうり、わたしがが本来の状態に戻してあげましたが。

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